ロジカルシンキングは、戦略コンサルタントの仕事の土台であると同時に、選考のあらゆる場面で見られている力でもあります。一方で、「フレームワークを覚えること」と誤解されたまま練習してしまい、伸び悩む方も少なくありません。本記事では、MECEとピラミッド構造という2つの基本を軸に、実務でも選考でも使える考え方を整理します。
※ 本記事で例として挙げている数値は、すべて説明のための仮定です。
ロジカルシンキングとは何か
ロジカルシンキングを一言でいえば、主張と根拠のつながりを、他人が検証できる形にする技術 です。難しい言葉を使うことでも、頭の回転の速さでもありません。
- 何を主張しているのかが明確である
- その主張を支える根拠が示されている
- 根拠から主張への飛躍がなく、第三者が同じ道筋をたどれる
この3点が満たされていれば、それはロジカルな説明です。逆に、どれだけ情報量が多くても、主張が不明確だったり根拠との間に飛躍があったりすれば、聞き手は納得できません。
MECE:切り口の選び方が本質
MECEの基本
MECE(ミーシー)は「漏れなく、ダブりなく」を意味します。物事を分解するときに、要素を足し合わせると全体になり、かつ要素同士が重ならない 状態を指します。
たとえば「売上」を分解する場合、次のような切り口が考えられます。
| 切り口 | 分解の例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 掛け算 | 売上 = 客数 × 客単価 | どの変数が効いているかを特定したいとき |
| 足し算 | 売上 = 既存顧客 + 新規顧客 | 構成比の変化を見たいとき |
| 属性 | 地域別、チャネル別、商品別 | 差が大きい塊を見つけたいとき |
| プロセス | 認知 → 検討 → 購入 → 再購入 | どの段階で落ちているかを見たいとき |
「MECEであること」は目的ではない
初学者が陥りがちなのが、MECEであることを目的にしてしまうことです。しかし、MECEな分解は無数に作れます。大切なのは、課題の解決に近づく切り口を選ぶこと です。
切り口を選ぶときの判断基準は、おおむね次の3つです。
- 差がつくか:分けたときに、要素間で明らかな違いが出そうか
- 打ち手につながるか:分けた結果が、具体的な行動の議論に接続するか
- データが取れるか:その分け方で、実際に数字や事実を確認できるか
たとえば「売上が落ちている」という課題に対して、性別で分けても差が出ないと分かっているなら、その切り口には意味がありません。一方、チャネル別に分けたときに特定のチャネルだけが落ちているなら、そこから議論を深められます。
厳密さと実用性のバランス
実務では、完全にMECEな分解ができないこともあります。その場合は「主要な要素を押さえ、残りを『その他』として扱う」という割り切りも有効です。重要なのは、漏れている可能性を自覚し、必要に応じて言及できること です。「今回は影響が大きいと考えられる3つに絞って考えます」と宣言できれば、それは思考の抜けではなく、意図的な絞り込みとして伝わります。
ピラミッド構造:主張と根拠を積み上げる
基本の形
ピラミッド構造とは、頂点に主張(結論)を置き、その下に根拠を並べ、さらにその下に事実やデータを置く構造です。
【主張】A社は新規顧客の獲得を優先すべきである
├ 【根拠1】既存顧客からの売上は頭打ちになっている
│ ├ 事実:直近3年の既存顧客売上は横ばい(仮定)
│ └ 事実:解約率は安定しており、改善余地が小さい(仮定)
├ 【根拠2】新規獲得の余地が大きい市場が存在する
│ └ 事実:未進出エリアの需要規模が一定以上ある(仮定)
└ 【根拠3】新規獲得に必要な体制は既存資産で構築できる
└ 事実:現行の営業体制で対応可能な範囲である(仮定)
このとき、守るべきルールは2つです。
- 縦のつながり:下の階層は、上の主張を支える根拠になっている
- 横の並び:同じ階層の要素は、互いに重ならず、並列の関係にある
横の並びがMECEになっていると、「他にも理由があるのでは?」という疑問に耐えられる構造になります。
作る順番は「結論が先」とは限らない
完成形は結論が先頭に来ますが、考える過程では逆のこともあります。事実を集めて眺めるうちに共通点が見え、そこから主張が立ち上がることは珍しくありません。考える順番と、伝える順番は別物 だと理解しておくと、無理に結論を急がずに済みます。
So What / Why So の往復
ピラミッド構造の縦のつながりを点検する道具が、So What(だから何?)と Why So(なぜそう言える?)です。
- So What:事実やデータから、「だから何が言えるのか」を一段引き上げる
- Why So:主張に対して、「なぜそう言えるのか」を一段掘り下げる
たとえば「若年層の利用者数が減っている」という事実に対して、So What を問うと「主力商品の訴求が若年層に届いていない可能性がある」という解釈が生まれます。さらに So What を重ねると「訴求内容またはチャネルの見直しが必要だ」という打ち手の議論に進みます。
逆に「訴求チャネルを見直すべきだ」という主張に Why So を問えば、「若年層の利用が減っている」「その層の情報接触の場が変化している」という根拠が必要だと分かります。
よくある飛躍
この往復を省くと、次のような飛躍が起こります。
- 事実の言い換えで止まる:「売上が10%落ちた」→「売上が悪化している」。これは So What ではなく、同じことの言い換えです
- 根拠が主張を支えていない:「競合が値下げした」→「だから自社も値下げすべき」。間に「自社の顧客が価格を理由に離れている」という検証が必要です
- 一般論に逃げる:「デジタル化が進んでいる」のような、どの会社にも当てはまる根拠は、その主張を支える力を持ちません
日常業務での鍛え方
ロジカルシンキングは、特別な訓練の場がなくても鍛えられます。日々の業務の中で、次のような習慣を持つことをおすすめします。
- メールやチャットを結論から書く:1通ごとに「主張は何か、根拠は何か」を意識するだけで、反復練習になります
- 会議の前に論点を1行で書く:「今日決めたいことは何か」を書き出してから参加する
- 資料を読むときに構造を復元する:他人の資料の主張と根拠を、頭の中でピラミッドに組み直してみる
- ニュースに So What を当てる:見出しを読んだら、「だから自分の業界にとって何を意味するか」まで考える
- 口に出して説明する:紙の上では通っているつもりの論理も、声に出すと飛躍に気づけます
いずれも、1回あたり数分で終わるものばかりです。量より頻度 を意識して、毎日の業務の中に埋め込んでいくのが現実的です。
選考でどう評価につながるか
ロジカルシンキングは、ケース面接だけでなく選考全体で見られています。
| 場面 | 見られていること |
|---|---|
| 職務経歴書 | 課題・打ち手・成果のつながりが読み取れるか |
| 志望動機 | 主張(なぜこのファームか)に根拠が伴っているか |
| ケース面接 | 切り口の選び方と、根拠から結論への道筋 |
| 深掘り質問 | Why So に答えられるか、飛躍を自覚できているか |
特に深掘り質問への対応は、日頃の習慣がそのまま出ます。面接官の「なぜそう言えますか?」は、否定ではなく構造の確認です。慌てて主張を変えるのではなく、根拠を丁寧に示すか、根拠が弱いと気づいたなら「その点は確認が必要です」と正直に伝えるほうが、結果的に評価につながります。
練習課題
実際に手を動かして確かめてみましょう。いずれも、紙とペンがあれば10〜15分程度で取り組めます。
課題1:切り口を3つ出す
「あるサービスの解約が増えている」という状況に対して、原因を探るための切り口を3つ挙げ、それぞれについて「なぜその切り口を選んだか」を一言で書いてください。そのうえで、3つのうちどれを最初に確認するかと、その理由を説明してみましょう。
ポイント:MECEかどうかより、「差がつきそうか」「打ち手につながるか」で選べているかを確認します。
課題2:直近の業務をピラミッドにする
直近で自分が出した提案や判断を1つ選び、主張を1行、根拠を3つ、各根拠を支える事実を1〜2個ずつ書き出してください。書き終えたら、各根拠に Why So を1回ずつ当ててみます。
ポイント:事実の欄が埋まらない根拠があれば、それは「主張の言い換え」になっている可能性があります。
課題3:So What を3段階つなげる
気になったニュース記事を1つ選び、記事中の事実を1つ取り出して、So What を3回繰り返してください。最後に、その結論が自分の仕事や志望業界にとって何を意味するかまで到達できているかを確認します。
ポイント:3回とも同じ内容の言い換えになっていないか、一段ずつ抽象度が上がっているかを点検しましょう。
まとめ
ロジカルシンキングは、MECEな切り口で分解し、ピラミッド構造で主張と根拠を組み立て、So What / Why So で縦のつながりを点検する——この3点セットで整理できます。フレームワークを覚えることが目的ではなく、自分の考えを他人が検証できる形にすることがゴールです。日々の業務の中で短い反復を重ねれば、選考の場でも自然に力を発揮できるようになるはずです。
Strategy Talentでは、思考プロセスに踏み込んだフィードバックを通じて、こうした基礎力の強化をお手伝いしています。伸ばすべきポイントの見極めに迷ったら、お気軽にご相談ください。