Case Practice

隣接する2つの公立病院を再編すべきか、医療と財政の両面から判断する

  • 公共・非営利
  • 難易度:応用
  • 目安 30分
設問

隣接する人口10万人のX市と人口6万人のY市に、それぞれ市立病院があります。X市立病院は300床で救急と手術を担い、Y市立病院は200床で、同様の診療科を持ちながら車で20分の距離にあります。
両病院とも医師の確保に苦しみ、病床利用率は70%と60%、赤字は年8億円と年6億円で、それぞれの市が一般会計から補填しています。両市の共同で再編の検討会が設けられ、あなたはその助言を求められました。
「機能分担」「統合」「現状維持」のどれを選ぶべきか、医療提供と財政の両面から結論を述べてください。

まず時間を計って、声に出して解いてみてください。行き詰まったらヒントを1つずつ開き、解き終えてから解説を確認します。

ヒント 1 を見る

「何を守るか」を最初に定義しましょう。救急への到達時間、入院・手術の提供体制、財政の持続性など、評価軸を複数置くと選択肢を比べられます。

ヒント 2 を見る

赤字を「費用 − 収入」に分け、病床利用率と医師数の関係を見ると、赤字の構造が見えます。2つの病院が同じ機能を持つことで、医師が分散していないかを考えましょう。

ヒント 3 を見る

統合や機能分担は、通院距離が延びる住民への影響を伴います。移動手段の確保など、影響を和らげる手立てをセットで提案しましょう。

解説を表示する解答の流れ・数値例・評価のポイント・よくあるNG・発展問題

前提の確認

  • 依頼主:隣接するX市(人口10万人)とY市(人口6万人)の共同検討会。両市立病院の赤字は各市の一般会計から補填している
  • 状況:両院は車で20分の距離にあり、救急と手術を含めて同様の診療科を持つ。医師はX40人、Y20人(仮定)
  • 目的の確認:「赤字を減らすこと」が目的なのか、「両市の住民が必要な医療を受けられる体制を保つこと」が目的なのか。候補者から確認し、両方を評価軸に置くことを提案する

解答の流れ

1. 論点と評価軸の設定

本問では、次の4つを評価軸として置きます。

  1. 救急への到達:重症の救急患者が、一定時間(例:30分)以内に対応できる病院へ運ばれること
  2. 急性期と回復期の提供:急性期医療と、退院後の回復期・慢性期の医療の両方が地域内で受けられること
  3. 財政の持続性:両市の補填額を、将来にわたって負担できる水準に収めること
  4. 実現までの時間と確実性:医師の確保と住民の合意を含め、実行できる案であること

論点は「2つの病院が同じ機能を持ち続けることが両面で持続できるか」です。

2. 現状の分解

赤字を「費用 − 収入」に分け、両院を並べます(仮定)。

病院 病床 稼働病床 収入 費用 収支 医師
X市立病院 300床 210床 90億円 98億円 −8億円 40人
Y市立病院 200床 120床 50億円 56億円 −6億円 20人
合計 500床 330床 140億円 154億円 −14億円 60人

赤字の構造は次の通りです。

  • 両院とも救急と手術の体制(当直や手術室など)を持ち、その固定費に対して患者数が足りていない
  • 医師60人が2つの当直体制に分かれ、1人あたりの負担が重い。医師の確保が難しくなり、医師が減ると救急を維持できず患者がさらに減る悪循環に入る
  • 人口減少で必要な稼働病床は10年後に300床程度(仮定)まで減る見込みで、500床の維持は難しい

3. 選択肢の比較

選択肢 医療提供への影響 財政への効果(仮定) 実現性
A. 機能分担:Xに救急・手術を集約し、Yは回復期・慢性期と外来・軽症の救急に転換(150床) Y市の重症救急はXへ搬送し、到達時間が約20分延びる。回復期の受け皿は強化される Xは収入100億円・費用103億円で−3億円、Yは収入40億円・費用42億円で−2億円。合計の赤字は14億円から5億円へ。Yの改修に一時10億円 2〜3年。医師の再配置に両院の合意が必要
B. 統合:中間地点に400床の新病院を建設し、両院を閉鎖 両市とも移動距離が延びる。回復期の受け皿を別に用意する必要がある 運営の赤字は解消に近づくが、建設費200億円の負担が加わる 5〜7年。用地と両市の費用負担の合意が難しい
C. 現状維持:両院の共同で医師を派遣し合う 短期は変わらないが、医師が減れば救急の停止に至るリスク 赤字14億円が続き、人口減少でさらに拡大 直ちに可能だが、問題を先送りする

Aは評価軸1でY市の住民に負担を求める一方、評価軸2〜4を満たします。Bは長期には合理的でも、今の赤字と医師不足に間に合いません。Cは評価軸3と4に反します。

4. 結論

機能分担(A)を選ぶべきです。Y市の重症救急の到達時間が延びることを認めたうえで、補填額を合計14億円から5億円に抑え、救急と手術の集約で医師の当直負担を軽くし、悪循環を断ちます。ただし、次の条件が満たされない場合は、当面は現状維持に医師の相互派遣を加え、統合(B)を視野に検討を続けます。

  • 医師60人のうち45人をX、15人をYに再配置することに両院の医師が合意できること
  • Y市の全域からXへの救急搬送が30分以内に収まることを、消防と確認できること
  • Y市からXへの通院の交通手段と、Yでの外来と軽症救急の継続を住民に説明できること

面接官とのやり取りの例

候補者:「最初に、検討会が何を守りたいのかを確認させてください。赤字の縮小だけなら病床を減らせば済みますが、住民が救急と入院を地域内で受けられる体制を保つことが本来の目的だと理解しています。」

面接官:「その通りです。ただし、両市とも補填額の増加を議会から厳しく問われています。」

候補者:「では、医療提供と財政の両方を評価軸に置きます。次に赤字の構造ですが、両院が救急と手術の体制を持つことで、固定費に対して患者が足りていないのではないかと考えています。」

面接官:「その通りで、Y市立病院の手術件数は年々減り、当直の負担を理由に医師2人が退職しました。」

候補者:「悪循環に入りかけていると見ます。救急と手術をXに集約し、Yを回復期に転換する案を軸に考えたいのですが、Y市からXまでの救急搬送時間はどの程度でしょうか。」

面接官:「Y市の中心部から20分、遠い地区では35分かかります。」

候補者:「35分の地区は、救急車の配置の見直しやYでの初期対応で補えるかを確認し、30分以内に収められることを条件にします。」

評価のポイント

観点 見られていること
成功の定義 財政だけでなく、救急への到達など医療の目的を評価軸に置いたか
分解 赤字を費用と収入に分け、機能の重複と医師の分散を特定したか
トレードオフ 3つの選択肢を同じ評価軸で比べ、住民に求める負担を示したか
実行への配慮 医師の合意や搬送時間など、実行を左右する条件を示したか

よくあるNG

  • 「赤字の大きい病院を閉鎖する」と即答し、救急や回復期の提供体制への影響に触れない
  • 反対に「公立病院だから赤字でよい」と考え、財政の持続性を評価軸から外す
  • 統合を理想として勧め、建設費と時間が今の問題に間に合わない点を検討しない
  • 通院や搬送の距離が延びる住民への手立てを示さず、再編の案だけを提示する

発展問題

機能分担の後、Y市の住民から「病院が格下げされた」との反発が強まりました。転換後のY市立病院の役割と価値をどのように示して理解を得るべきか、指標と伝え方の観点から述べてください。

※ 本問の数値・組織はすべて説明のための架空の設定です。

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