Case Practice

外食チェーンはデリバリー専業のブランドを買収すべきか

  • M&A・投資判断
  • 難易度:標準
  • 目安 25分
設問

全国に300店舗を展開する定食チェーンがあります。年商は600億円、営業利益率は4%で、デリバリーの売上比率は5%にとどまっています。
このチェーンに、都市部で20拠点を運営するデリバリー専業ブランド(店舗を持たず、調理拠点から配達のみを行う業態)の売却案件が持ち込まれました。対象の年商は30億円、営業利益は1億円、提示価格は20億円です。
買収すべきかどうか、結論と理由を述べてください。

まず時間を計って、声に出して解いてみてください。行き詰まったらヒントを1つずつ開き、解き終えてから解説を確認します。

ヒント 1 を見る

買収の判断は「単体の価値 + シナジー ≧ 価格」の形で考えます。シナジーは売上と費用に分け、根拠となる仮定を口に出しましょう。

ヒント 2 を見る

売上シナジーの最大の源泉は、自社の300店舗の厨房を配達拠点として使えることです。1店あたりの追加売上を仮定し、積み上げてみましょう。

ヒント 3 を見る

配達プラットフォームへの依存や、買収先の人材流出など、統合後に価値を損なう要因をリスクとして挙げてください。

解説を表示する解答の流れ・数値例・評価のポイント・よくあるNG・発展問題

前提の確認

最初に、面接官と次の点をすり合わせます。

  • 買収の目的:自社のデリバリー比率5%を引き上げ、店舗の売上に依存しない成長の柱をつくること
  • 対象の事業:配達プラットフォーム経由の注文が売上の大半で、自社配達はしていない(仮定)
  • 価格の意味:提示価格20億円は営業利益1億円の20倍にあたり、単体の価値だけでは高い。シナジーを含めて正当化できるかが論点
  • 判断の基準:買収後の年間利益で、5年以内に価格を回収できるか(仮定)

解答の流れ

1. 判断軸の設定

  1. 単体の価値:対象が今のまま成長した場合の価値
  2. 売上シナジー:自社の店舗網を配達拠点として使うことで生まれる売上
  3. 費用シナジー:共同購買や本部機能の統合で減らせる費用
  4. 統合のリスク:買収後に価値を損なう要因と、その対策

2. 各判断軸の検討

単体の価値:営業利益1億円に対し、成長性を踏まえて利益の10倍程度、10億円(仮定) と置きます。提示価格20億円との差の10億円分を、シナジーで埋められるかが判断の中心です。

売上シナジー:300店舗のうち、対象ブランドの需要がある都市部の100店で、既存の厨房を配達拠点として使うと仮定します。1店あたり月100万円の追加売上(仮定)を置くと、年12億円です。食材費とプラットフォーム手数料を差し引いた貢献利益率を30%と置き、既存厨房を使うため固定費は増えないとすれば、年3.6億円の利益貢献になります。加えて、対象が持つメニュー設計とプラットフォーム運用のノウハウを既存のデリバリーに適用できる効果も期待できます。

費用シナジー:対象の食材費を売上の35%の10.5億円と置き、共同購買で5%下げられれば年約0.5億円です。本部機能の統合も含めて、費用シナジーは合計 年0.5億円 と控えめに見ます。

採算の整理

買収後の年間利益 = 単体1億円 + 売上シナジー3.6億円 + 費用シナジー0.5億円 = 約5億円 価格20億円 ÷ 5億円 = 4年で回収

判断基準の5年以内に収まり、価格は正当化できる水準です。ただし、この結論はシナジーの3.6億円が実現することに依存しています。

3. リスクと条件

  • プラットフォーム依存:手数料が引き上げられると、貢献利益率30%が崩れる
  • 人材流出:対象ブランドの価値はメニュー開発と運用の人材にあり、買収後に離れると単体の価値も失われる
  • 現場の負荷:既存店舗の昼夜のピークと配達注文が重なると、店内の客への提供が遅れ、本業を損なう
  • ブランドの混同:定食チェーンと対象ブランドの世界観が混ざり、どちらの顧客も離れる

4. 結論

結論はイエスです。ただし、次の条件が満たされない場合は見送り、資本を伴わない業務提携で試すにとどめます。

  • 既存店10店でのパイロットで、1店あたり月70万円以上の追加売上を確認できること(この水準で回収は5年以内に収まる)
  • 対象ブランドの主要人材と、一定期間の在籍を前提とした契約を結べること
  • 買収価格が20億円を超えないこと。上振れするなら、業績に連動した後払いの条件を入れる

面接官とのやり取りの例

候補者:「価格20億円は単体の利益では正当化しにくいので、シナジーで判断すると仮定します。対象ブランドの需要がある都市部に、自社の店舗はどのくらいありますか。」

面接官:「大都市圏に約100店あります。」

候補者:「その100店を配達拠点にすると仮定して、1店あたり月100万円の追加売上を置きます。既存店のデリバリー売上は現在どの程度ですか。この水準が妥当かを確かめたいです。」

面接官:「デリバリーを行っている店舗では、平均で月60万円です。」

候補者:「専業ブランドのメニューと運用が加わることで、それを上回る水準は現実的だと考えます。次に、対象の利益はプラットフォーム手数料をどの程度前提にしていますか。手数料の引き上げが最大のリスクだと見ています。」

面接官:「売上の3割です。過去2年で2度、引き上げがありました。」

候補者:「その傾向が続くなら、貢献利益率は下振れします。パイロットで確認する売上の水準を月70万円と厳しめに置き、それでも回収できるかを条件にします。」

評価のポイント

観点 見られていること
前提確認 買収の目的と判断基準を、自分から置けたか
判断軸 単体の価値とシナジーを分け、シナジーを売上と費用に分解できたか
数値の扱い シナジーの根拠となる仮定を口に出し、回収年数まで示せたか
結論の出し方 イエス/ノーを明言し、パイロットと契約条件で見送りの線を引けたか

よくあるNG

  • 「デリバリーは成長市場」という一般論だけで買収を勧め、価格との比較をしない
  • 単体の利益1億円と価格20億円だけを見て「高すぎる」と即断し、シナジーを検討しない
  • シナジーを大きく見積もり、実現を左右する条件やリスクに触れない
  • 買収か見送りかの二択にとどまり、業務提携や価格条件の調整といった代替案を示さない

発展問題

同じ定食チェーンが、買収ではなく 自社でデリバリー専業ブランドを立ち上げる 案を検討しています。立ち上げに要する時間と投資、失敗した場合の損失の観点から、買収案と比べてどちらを選ぶべきか、条件を添えて結論を述べてください。

※ 本問の数値・企業はすべて説明のための架空の設定です。

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