歯科クリニック10院を運営する医療法人の収益を改善する
- 売上・利益改善
- 難易度:標準
- 目安 25分
地方都市とその近郊で歯科クリニックを10院運営する医療法人の理事長から相談を受けています。
「患者数は減っていないのに利益がほとんど出ない。院によって業績のばらつきも大きい」とのことです。
収益構造を分解したうえで、改善のための打ち手と優先順位を提案してください。
まず時間を計って、声に出して解いてみてください。行き詰まったらヒントを1つずつ開き、解き終えてから解説を確認します。
ヒント 1 を見る
売上を「延べ来院数 × 1回あたり単価」に分け、来院数はチェア(診療台)の稼働、単価は自費診療の比率で決まると考えると、歯科特有の論点が見えてきます。
ヒント 2 を見る
治療が終わった患者が定期検診に戻ってくる割合(リコール率)は、来院数の安定と稼働の平準化に直結します。院ごとの差を確認しましょう。
ヒント 3 を見る
10院のばらつきは、優れた院のやり方を他院に広げる余地があるという意味で、打ち手の宝庫です。平均だけでなく分布を見ましょう。
解説を表示する解答の流れ・数値例・評価のポイント・よくあるNG・発展問題
前提の確認
最初に、面接官と次の点をすり合わせます。
- 規模:1院あたり年間売上1.2億円、10院で 12億円。各院にチェア5台、歯科医師2人、歯科衛生士3人、受付・助手3人(仮定)
- 目標の翻訳:営業利益は1億円(利益率約8%)。理事長の意向を確認し、3年で2億円 に引き上げることを目標と置く
- 手段の範囲:院の閉鎖は選択肢に含めてよいが、患者と従業員への影響が大きいため最終手段とする。診療の質を落とす打ち手や、患者に必要のない治療を勧める打ち手は取らない
解答の流れ
1. 論点の設定
営業利益 = 延べ来院数 × 1回あたり単価 − コスト
1院あたりの延べ来院数は、チェア5台 × 1日8人 × 年間250日 = 1万回、単価は保険診療と自費診療をならして 1.2万円(仮定)で、売上1.2億円に整合します。コストの内訳は、人件費6.5億円(売上比54%)、材料・技工費1.8億円(15%)、家賃・設備費1.5億円(12.5%)、広告・本部費など1.2億円(10%)の合計 11億円 と置きます。
「患者数は減っていない」という言葉から、論点を 「来院数の質(稼働とリコール)」「単価(自費比率)」「コスト構造」 の3つに置きます。
2. 分解とボトルネックの特定
院ごとのばらつきを仮定で置くと、次のようになります。
| 指標 | 10院平均 | 上位の院 | 下位の院 |
|---|---|---|---|
| チェアの稼働率(予約枠のうち埋まった割合) | 80% | 90% | 65% |
| リコール率(治療完了後に定期検診に戻る割合) | 30% | 50% | 15% |
| 自費診療の売上比率 | 15% | 25% | 8% |
リコール率30% が最初のボトルネックです。定期検診の患者は予約が安定し、キャンセルも少ないため、稼働の土台になります。上位の院は受付が次回の予約をその場で取り、案内の連絡を仕組みにしている一方、下位の院は患者任せになっています。
自費比率のばらつき は、治療の選択肢を説明する手順が院ごとに違うことが要因と見立てます。上位の院では、治療前に保険と自費の両方の選択肢を資料で説明する担当を置いています。
人件費率54% については、歯科衛生士が不足している院で、一般に歯科衛生士が担えるとされる予防処置を歯科医師が行っており、歯科医師の時間が治療に使えていない状態と見立てます。
3. 打ち手の洗い出しと評価
| 打ち手 | 効果の試算 | インパクト | 実現性 | スピード |
|---|---|---|---|---|
| A. リコールの仕組み化:次回予約のその場確保、案内の自動配信。リコール率30%→45% | 治療完了2,000人/院 × 15pt × 年2回 = 600回/院。単価0.8万円で10院 +0.48億円、材料費を引き +0.4億円 | 中 | 高 | 高 |
| B. 治療選択肢の説明の標準化:説明資料と担当者を全院に展開。自費比率15%→20% | 自費売上 +0.6億円、技工・材料費を引き +0.4億円 | 中 | 中 | 中 |
| C. 歯科衛生士の採用と役割分担の見直し:予防処置を衛生士へ移し、歯科医師の増員なしに来院増を受け止める | 人件費率54%→52% −0.24億円 | 小 | 中(採用市場の競争) | 低 |
| D. 材料の共同購買と技工所の集約 | 材料・技工費の10% −0.18億円 | 小 | 高 | 高 |
| E. 下位1院の閉鎖 | +0.1億円 | 小 | 低(患者・従業員への影響) | 低 |
A〜Dの合計は 1.22億円 で、営業利益は約2.2億円となり目標に届きます。Aで増える来院は1院あたり600回で、稼働率は80%から85%程度に上がる計算となり、チェアの追加投資は不要です。Bは、患者に必要のない治療を勧める形になると信頼を損ない、医療の広告や説明には一般に一定の制限があるとされるため、説明の質を揃えることに限定します。
4. 結論
初年度は投資が少なく効果が早い A(リコール) と D(購買) に集中し、並行して上位の院のやり方を教材にした B(説明の標準化) の展開を始めます。C は採用に時間がかかるため、初年度から募集を始めて2〜3年目に効果を出します。下位の院には本部から運営担当を派遣し、稼働率とリコール率を月次で追います。閉鎖は、2年経っても改善しない院に限って検討します。
面接官とのやり取りの例
候補者:「患者数は減っていない」とのことですが、来院の中身を確認させてください。治療が終わった患者が定期検診に戻る割合は、院によってどの程度違いますか。
面接官:平均で3割程度です。良い院は5割、悪い院は1〜2割です。
候補者:上位の院と下位の院で、受付の運用に違いはありますか。
面接官:上位の院は会計時に次回の予約を取り、時期が来ると連絡しています。下位の院は「またお越しください」で終わっています。
候補者:であれば、仕組みの横展開で改善できそうです。次に単価ですが、自費診療の比率はどうでしょうか。
面接官:売上ベースで平均15%、上位の院は25%、下位は8%です。上位の院には治療の選択肢を説明する専任の担当がいます。
候補者:説明の質を全院で揃えれば、無理に勧めることなく比率を上げられると考えます。最後に、歯科衛生士の配置は足りていますか。
面接官:2院で衛生士が不足しており、クリーニングを歯科医師が行っています。採用は苦戦しています。
評価のポイント
| 観点 | 見られていること |
|---|---|
| 目標の翻訳 | 「利益が出ない」を金額に置き換え、3年後の目標を理事長と合意できたか |
| 分解 | 来院数を稼働とリコール、単価を自費比率に分け、歯科に固有の指標で議論できたか |
| ばらつきの活用 | 平均ではなく院ごとの分布を見て、上位の院のやり方を横展開する発想を持てたか |
| 前提への配慮 | 自費比率の引き上げについて、患者の利益と診療の質を損なわない条件をつけられたか |
よくあるNG
- 「患者数を増やすために広告を打つ」と提案し、既存患者のリコールと稼働という足元の余地を見落とす
- 自費比率を「上げれば儲かる」と単純に扱い、患者への説明や信頼への影響を考えない
- 10院の平均だけで議論し、院ごとのばらつきという情報を使わない
- 人件費率を下げるために人員削減を提案し、衛生士不足という実態と逆行する
発展問題
同じ医療法人が、隣接する市に 11院目を開設する 案と、既存10院の改善に投資を集中する案を比べています。新院の初期投資と黒字化までの期間を仮定で置き、既存院への投資の利益率と比較して、どちらを優先すべきか結論を述べてください。
※ 本問の数値・組織はすべて説明のための架空の設定です。
解いた内容、プロの目で確かめませんか。
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