損害保険の保険金支払い業務の期間短縮とコスト削減を両立する
- コスト削減・オペレーション
- 難易度:標準
- 目安 25分
自動車保険と火災保険を中心とする損害保険会社の役員から相談を受けています。
「事故の受付から保険金の支払いまでの日数が長く、顧客からの不満が多い。同時に、支払い業務の費用も2年で20%削減したい。ただし、払いすぎや払い漏れは増やせない」とのことです。
期間の短縮と費用の削減をどう両立するか、方針を提案してください。
まず時間を計って、声に出して解いてみてください。行き詰まったらヒントを1つずつ開き、解き終えてから解説を確認します。
ヒント 1 を見る
「正確さ」を誤払い率(払いすぎ・払い漏れの割合)、「顧客満足」を支払い後のアンケートなど、測れる指標に置き換えてから議論を始めましょう。
ヒント 2 を見る
支払いまでの日数を工程ごとに分けると、実際に作業している時間よりも、書類や決裁を待っている時間のほうが長いことが多くあります。期間とコストの両方に効く打ち手は、この待ち時間に潜んでいます。
ヒント 3 を見る
案件を金額や複雑さで層別すると、少額で定型的な案件と、高額で調査が必要な案件では、適切な工程が異なることが見えてきます。
解説を表示する解答の流れ・数値例・評価のポイント・よくあるNG・発展問題
前提の確認
最初に、面接官と次の点をすり合わせます。
- 対象:自動車保険のうち、車両の修理など物損の案件を主対象とする。けがに関わる案件は判断が複雑で期間の性質が異なるため、本問では扱わない
- 費用の範囲:支払い部門の年間運営費 100億円(仮定)。内訳は人件費70億円、システム費15億円、損害調査の外部委託費15億円。削減目標は20億円
- 「正確さ」と「顧客満足」の定義:誤払い率(払いすぎと払い漏れの合計割合)と、支払い後の顧客アンケートの満足度を、現状の水準以上に維持する
- 期限と制約:2年で実現する。従業員の雇用は原則として維持したい意向がある
解答の流れ
1. 論点と評価軸の設定
論点は「支払いの正確さと従業員への影響を保ちながら、期間とコストの両方を下げる打ち手の組み合わせは何か」です。評価軸は、①費用の削減額、②期間の短縮効果、③誤払い率と顧客満足度への影響、④従業員への影響の4つと置きます。
2. 現状の分解
年間の案件数を 100万件(仮定) とし、人件費70億円を割ると1件あたり7,000円です。これは、1件あたりの処理時間 2時間 × 時間あたり人件費 3,500円(仮定)に整合します。
人件費 = 年間の案件数 × 1件あたりの処理時間 × 時間あたりの人件費
次に、受付から支払いまでの平均 30日(仮定) を工程に分けます。
| 工程 | 日数 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 受付〜書類の回収 | 10日 | 事故状況の確認、修理見積りや写真の提出待ち |
| 損害の確認・見積りの査定 | 10日 | 修理工場との調整、必要に応じて現地調査 |
| 審査・決裁 | 5日 | 担当者の審査と上長の決裁待ち |
| 支払い手続き | 5日 | 支払いの案内と振込 |
ここで気づきたいのは、作業時間は合計2時間なのに30日かかっている、つまり ほとんどが待ち時間 だということです。待ち時間の間に顧客から進捗の問い合わせが入り、その対応がさらに処理時間を増やしています。
案件を層別すると、修理費30万円以下の少額案件が60%、中額が30%、高額で調査が必要な案件が10%(仮定)です。それにもかかわらず、すべての案件が同じ工程を通っています。
3. 打ち手の洗い出しと評価
| 打ち手 | 削減効果(仮定) | 期間の効果 | 正確さ・従業員への影響 |
|---|---|---|---|
| A. 少額案件の簡易審査:提携修理工場の見積りとの自動照合、担当者への決裁権限の委譲、書類の簡素化 | 少額60万件の処理時間2時間→1.2時間 → 16.8億円減 | 少額案件30日→10日 | 誤払いが増える恐れ。事後のサンプリング監査と、不自然な見積りを検知するルールで担保 |
| B. 書類のデジタル提出と進捗の自動通知:スマートフォンでの写真・書類の提出、工程が進むたびに通知 | 中額・高額40万件で問い合わせ対応が減り処理時間0.2時間減 → 2.8億円減 | 書類回収10日→3日 | 電話を好む顧客のために従来の手段も残す。顧客満足度は改善が見込める |
| C. 現地調査の見直し:写真・動画で判断できる案件は現地調査を省略 | 委託費15億円の20% → 3億円減 | 査定10日→7日 | 高額案件は現地調査を維持し、正確さを守る |
| D. 拠点の集約と人員削減 | 大きいが不確実 | — | 雇用への影響が大きく、今回は予備策 |
A〜Cの合計は 22.6億円(約23%) で目標に届きます。期間は、少額10日・中額22日・高額27日と置くと、加重平均で 約15日 となり、30日から半減します。Dは効果があっても従業員への影響が大きく、A〜Cで届かない場合の予備策にとどめます。
4. 結論
「案件の性質に合わせて工程を分け、待ち時間をなくす」ことを中心に、A〜Cを組み合わせて年間約22.6億円の削減と、平均処理期間の半減を目指します。正確さについては、誤払い率を月次で確認し、簡易審査の案件を一定割合で事後監査し、悪化すれば簡易審査の対象金額を引き下げます。従業員については、定型作業から解放された担当者を高額案件の審査や不正の検知といった判断を要する業務に配置転換し、退職による自然減と合わせて解雇を前提としない計画とします。
面接官とのやり取りの例
候補者:「支払いまでの30日を工程ごとに分けると、どこに時間がかかっていますか。作業そのものより、書類や決裁を待っている時間が長いのではないかと考えています」
面接官:「書類の回収に10日、査定に10日、決裁と支払いに10日です。書類は郵送が中心で、顧客からの提出待ちが長いです」
候補者:「では、スマートフォンからの提出と進捗の通知で、待ち時間と問い合わせの両方を減らせそうです。次に案件の構成ですが、金額の小さい定型的な案件はどの程度ありますか」
面接官:「修理費30万円以下が6割です。ただ、審査は金額にかかわらず同じ手順で、上長の決裁も必要です」
候補者:「少額案件には簡易審査を設け、担当者に決裁を委ねたいと考えます。ただし誤払いが増えるリスクがあるので、事後のサンプリング監査を組み合わせます。現在の誤払い率はわかりますか」
面接官:「金額ベースで1%程度です。現場からは『早くしろと言われると確認が甘くなる』という懸念が出ています」
候補者:「処理日数だけを目標にせず、誤払い率と顧客満足度を同じ重みで評価指標に入れます。短縮するのは待ち時間と定型作業であって、確認そのものではないことを現場に示します」
評価のポイント
| 観点 | 見られていること |
|---|---|
| 論点設定 | 「正確さ」と「顧客満足」を測れる指標に置き換えてから議論を始めたか |
| 分解 | 費用を「件数×時間×単価」、期間を工程ごとの待ち時間に分け、両方に効く打ち手を見つけられたか |
| 層別 | 案件を金額や複雑さで分け、性質に応じた工程を設計できたか |
| トレードオフ | 簡易審査による誤払いのリスクに対して、監査などの担保策と従業員への配慮を示せたか |
よくあるNG
- 「人を減らす」「拠点を集約する」といった単価の打ち手から入り、正確さと雇用への影響を検討しない
- 期間の短縮とコストの削減を別々の問題として扱い、待ち時間という共通の原因に気づかない
- すべての案件を同じ工程で扱ったまま、一律に「早くする」ことだけを求める
- 「正確さは落とさない」と口にするだけで、誤払い率をどう監視するかを示さない
発展問題
同じ会社で、大型の台風により火災保険の案件が 一時的に通常の3倍 に増える見込みになりました。平常時を前提にした簡易審査と人員配置を、繁忙期にどう変えるべきでしょうか。正確さを保ちながら期間の延びを抑える体制を、費用の考え方とともに提案してください。
※ 本問の数値・組織はすべて説明のための架空の設定です。
解いた内容、プロの目で確かめませんか。
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